『グリーン・ナイト』(The Green Knight)と不自然主人公(その1)
作品(The Green Knight) 2021年(日本では2022年公開) 上映時間 130分
監督 デヴィッド・ロウリー 制作国 アメリカ、カナダ
製作費 1500万ドル(約20億円?) 興行収入 2000万ドル(約27億円?)
まるで不条理小説みたいな展開である。
アーサー王のクリスマス宴会の余興-と思っていたら、命懸けの旅に出ることになったアーサー王の甥ガウェイン。
まず、時系列でこの作品の歴史的背景を書いてみよう。
・313年、ローマ皇帝コンスタンティヌスが「ミラノ勅令」でキリスト教を公認。
聖パトリック(387?-461)がアイルランドにキリスト教を広める。
・449年、アングロ・サクソン人がブリテン島に侵入。
・476年、西ローマ帝国の滅亡。
※ 6世紀初め、アーサー王がブリトン人(ケルト系民族)を率いてサクソン人を撃退。
・596年、アウグスティヌス(後にカンタベリー司教)がキリスト教布教のためにイングランドに派遣される。。
・7世紀、ウェールズの聖ウィニフレッド、信仰に生涯を捧げる。
・12世紀、『ブリタニア列王史』( Historia Regum Britanniae)が書かれる。
アーサー王の伝説が広まる元となる。中世には、アーサー王物語が流行する。
・14世紀後半、『ガウェイン卿と緑の騎士』(Sir Gawain and the Green Knight)がイングランドで書かれる(作者名不詳。この映画の原作にあたる)。
・19世紀、アーサー王物語の人気が復活する。
・20世紀、”緑の騎士”の映画化(1973年に、Sir Gawain and the Green Knight。1984年にSword of the Valiant: The Legend of Sir Gawain and the Green Knight 。1984年の方はショーン・コネリーが緑の騎士に扮している。どちらもイギリス映画である)。
虚実ない交ぜにしていて申し訳ないです。
上の記述を見ていて疑問が。
「6世紀初めのイングランドでキリスト教ってそんなに普及してたのか?」
「聖ウィニフレッド(のアレ)に会ったってことは旅でウェールズに行ったのか?」
などという疑問である。
アーサー王物語では、アーサーも円卓の騎士もキリスト教を信仰し、アーサー王は理想のキリスト教的君主となっていたらしいので、物語としてはそれでいいのだろう。
ただ、聖ウィニフレッドは7世紀の人なので、6世紀の人であるガウェインは会うことはできないよね(と粗さがしを)。
アーサー王は史実の人でなく、物語の英雄だから、つまらぬ詮索は”野暮”というべきなんでしょうね。
映画の内容に戻ると、主人公のガウェインは志操堅固な立派な騎士ーではありません。
クリスマス宴会のナゾの闖入者ーである緑の騎士の”ゲーム”の相手になることを申し出たのは、功名心によるものか、あるいは、アーサー王の甥という立場が為させたのでは、と思えます。何かの信念があったわけではないような。
ですから、1年後に緑の騎士との約束を果たすために旅行に出たのも、アーサー王に促され、仕方なく・・・ということで。全く行きたくはないでしょう。
緑の騎士との”ゲーム”での約束とは、
「自分の首をはねた者に(緑の)斧をやる。代わりに一年後のクリスマスに緑の礼拝堂に赴いて首に一撃を受けろ」
という内容です。
<どこかわからぬ場所になんだかわからぬ理由のために>出かけて行かねばならぬとは(しかも最期には首刎ね)。
とんだ不条理小説の主人公となった次第です。
銀の斧も金の斧も要りません。ああ。