映画などのブログ

映画評ではなくて感想みたいなものを

『ザ・メニュー』(The Menu)とホラーコメディ(その3)

 

 最後の方で、マーゴ(本当の名はエリン)は空腹を訴えて、”チーズバーガー”とフレンチフライを所望します。スローヴィクはこれを自ら作ってマーゴに出します。

 マーゴは一口食べると、「持ち帰り」(To go)したいと言い、スローヴィクとスタッフたちがこれを認めて、外に出られたことで、彼女は危機をを脱しました。

 

 実は、マーゴはスローヴィクに言われて、燻製場に樽(デザートに必要だと言われていた)を取りに行った外出時に、スローヴィクの住み家に入って、彼の部屋を見ていました。そこには、彼が安食堂の従業員時代の表彰写真が飾ってありました。写真には、今と違った若くて笑顔のスローヴィクがいたのです。

 

 

 これは映画に例えると(たとえる必要があるのか?という異議もあるでしょうが)、以下のようなことでしょうか。

 

 自分が低予算で映画を作っていた時は良かった。自分の考えたものを作れて、毎日の生活にもハリがあった。でも、今じゃ全くがんじがらめだ。

 出資者は興行成績について厳しいし、制作(プロデューサー)は「時間を短くしろ。予算の制約がある。アクションシーンが少ない。もっと面白くしろ」と無駄に口うるさい。批評家は無知で表層的なことしかわからないのに、やたら否定したがる。

 昔が懐かしいものだ・・・。

 

この映画の製作(プロデューサー)、アダム・マッケイ(1968ー)は、元々は脚本家で、後に映画監督・プロデューサーになった人です。

 最初は、NBC放送の人気バラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の出演者を目指してましたが、あえなく落選。だが、作り手としての才能を認められ、番組制作に関わることになります。1995-2001年までヘッド・ライター(主任放送作家)をつとめます。

 2004年から俳優・コメディアンのウィル・フェレル(1967ー)と組んで映画製作に乗り出します。本人は映画監督・脚本家としての評価を高めていきます。

 

 2010年代になると、より規模の大きい映画の製作・監督・脚本を手掛けることになります。

 

 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(The Big Short 2015)、『バイス』(Vice 2018)、『ドント・ルック・アップ』(Don't Look up 2021)などの製作費が高く、有名俳優が出演する作品で、いずれも監督をやり、脚本にも関わりました。

 『マネー・ショート』はサブプライム・ローン破綻を予見していた投資家たちを描き、『バイス』では、ブッシュ政権の副大統領ディック・チェイニーの半生を描きました。

 これらはドキュメンタリーではないので、社会派映画というよりも”社会派的エンタメ”と言うべきかもしれません(ただし『Qアノンの正体』(2021)というドキュメンタリーも作りました)。

 

 映画で予算規模が大きくなったり、社会的、政治的なことを扱うと、世間的な風当たりが強くなります。

 プロデューサーのアダム・マッケイの状況もこの映画に反映されたのかもしれません。